2023-24シーズンオフの移籍市場の3つのトレンド

2023-24シーズンオフのFA市場の動向に影響を与えたのが大谷翔平、山本由伸の交渉の長期化でした。それに加えてローカルの放映権料の問題などもあり、金庫を容易には開かなくなったチームもありました。

そのような中にあって2023-24シーズンオフの契約の傾向・トレンドについてCBSスポーツのR.J. Anderson氏がDeferrals, opt outs and more free-agency contract trends from 2023 MLB offseason and what they mean for futureの記事で分析しています。

その記事の中では以下の3つのトレンドが紹介されています。

  1. 年俸の後払いの時代
  2. 契約の長期化
  3. オプトアウト付帯の増加

1. 年俸の後払いの時代

年俸の後払いを象徴するのは大谷翔平です。山本由伸は契約年数の期間内に全額を受け取る契約となっていますが、大谷翔平の場合は7億ドルのうち10年間で受け取るのは2000万ドルで、残額の6億8000万ドルは契約期間終了後に受け取ることになっています。

このトレンドを生み出しているのはドジャースで、記事の中では以下のような事実が伝えられています。

  • ムーキー・ベッツ(12年3億6500万ドル中1億ドル)
  • フレディ・フリーマン(6年1億6200万ドル中6000万ドル)
  • テオスカー・ヘルナンデス(1年2350万ドル中850万ドル)

この年俸後払いの目的は、ぜいたく税の支払いの抑制です。ぜいたく税算出のための年俸総額は、原則としては契約の平均年俸で計算し加算することになっています。

しかし、後払いにすることによって、この平均額を落とすことができます。大谷翔平の場合、平均年俸が7000万ドルとなりますが、6800万ドルを後払いにすることによって、加算されるのは5000万ドル以下まで抑制されます。

ぜいたく税を回避することは難しいドジャースですが、この後払いを大きくすることによって、ペナルティの支払いを圧縮することができます。

年俸の後払いは2022-26労使協定で認められている方法で、選手側が同意する限り、制限なく後払い分割することができるようになっています。これを利用してドジャースはぜいたく税の支払いを圧縮していることになります。

現在はドジャースが先陣を切っていますが、労使協定が更新されるときに見直されない限り、このトレンドは経済規模の大きい球団に広がっていくかもしれません。

2. 契約の長期化

このオフに結ばれた長期の契約は、大谷翔平が10年、山本由伸が12年、ウィル・スミスが10年(契約延長)などがあります。

ただ、このトレンドは2022-2023シーズンオフから目につくようになったものでもあることが指摘されています。記事で列挙されている選手と契約年数は以下のとおりとなります。

  • トレア・ターナー:11年
  • ザンダー・ボガーツ:11年
  • アーロン・ジャッジ:9年
  • ブランドン・ニモ:8年
  • ダンズビー・スワンソン:7年

当然のことながらこれにも理由があります。支払う総額が同じ場合、契約年数を多くするほうが平均年俸が少なくなるからです。

わかりやすい数字では10年契約で3億ドルなら平均年俸が3000万ドルで、ぜいたく税には、この金額で加算されることになります。しかし、仮に15年契約であれば平均年俸は2000万ドルとなり、ぜいたく税の対象となる年俸総額への負荷を減らすことができます。

メジャーの場合、契約年数が残っていてもチームからリリースし、年俸は支払い続けるということは珍しいことではありません。

長期契約の場合、フランチャイズの顔、チームのコアという評価を与えていることがほとんどですが、契約最終年までプレーできることを保証していることは必ずしもありません。

2つ目のトレンドもぜいたく税の回避・圧縮が影響を与えていると考えられます。

3. オプトアウト付帯の増加

これは代理人のスコット・ボラス氏が流れを生み出していると言えます。

オプトアウトは契約の途中で、選手側が契約を破棄してフリーエージェントを選択するというもので、基本的には残っていた契約は無効になります。

スコット・ボラス氏が抱えているクライアントで2023-24シーズンオフにオプトアウトを含む契約を結んだ主な選手は以下のとおりとなります。

  • ブレイク・スネル
  • コディ・ベリンジャー
  • マット・チャップマン
  • ジョーダン・モンゴメリー
  • ショーン・マネイア
  • ニック・マルティネス

基本的には期待したような契約を手にできていない選手ばかりで、ジョーダン・モンゴメリー以外は1年後にFAを選択するオプトアウトを持っています。

ジョーダン・モンゴメリーは1年契約ですが、10試合に先発すると2025年の契約が自動的に有効になると同時に、それをオプトアウトできる権利も手にすることができるようになっています。

選手側はある程度の契約年数、そしてより高い金額の契約を望みますが、必ずしも希望通りにはならない場合があります。

良いパフォーマンスができればオプトアウトしてFAとなって、より良い契約を手にする。イマイチなパフォーマンスだった場合にはチームに残って現行の契約を履行するというのがオプトアウトを設定する場合の基本的な戦略となります。

契約が保証されている状態で、さらによりよい契約を手にする機会を持つことができるオプトアウトは選手側からすると悪いことではありません。

ただ、特にべリンジャー、スネル、チャップマン、モンゴメリーの場合、期待した契約がオファーされず「待つ」ことを選んだ結果、当初オファーされていたものよりも悪い契約になったとされています。

代理人のスコット・ボラス氏にとって戦略ミスを挽回するための苦肉の策が「オプトアウト」の連発と言えそうです。

このトレンドが2024-25シーズンオフも続いて、大きな潮流となるのか注目されます。

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